>>504【続き】
知りたくないこと、触れたくない心の傷。それらが記憶の彼方に消えてしまう前に、パンドラの箱を開けなくてはならない。そうしないと、自分も過去にとらわれたまま永遠に真実から取り残されてしまうからだ。過去に縛られた男という「ラストマン」の意味が明かされた第8話では、思い違いが生む悲劇が取り上げられた。
同姓同名の人違いによる誹謗中傷。バスジャック犯の狙いは不起訴になった置き去り事件の犯人・清水拓海(兼松若人)への復讐にあったが、実は清水は犯人ではなく女児は事故死だった。「どいつもこいつも大間違いで不正解だよ!」と叫んだバスジャック犯自身が、心太朗が言うところの「噂と書き込みに踊らされて、何一つ自分で確かめることなく、想像力のかけらもない馬鹿なネット民と同じ」という指摘は氾濫するネット言論への風刺になっていた。
『ラストマン』は匿名の悪意を一貫して描いており、背景には疎外された人々の存在がある。第1話の爆弾魔・渋谷(宮沢氷魚)や第6話の宇佐美(前原滉)はその典型であり、第8話のバスジャック犯の清水も含まれる。彼らは法律や制度が救えなかった人々である。社会から見捨てられ、罪を犯すに至った心境を考えるとやりきれない。本作には社会的な分断が加害者と被害者として現れる構図があり、分断を生み出した社会を告発しているように見える。